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ENo.1468 アイギール の日記補完その他。
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2日目には、多くの人々が街から離れ、それぞれの思惑の下、歩みを進めていった。
アイギールはそんな数多の登場人物――といってもその多くはヒトではないが――をみているうち、
この世界の感想を漏らした。

「大いに結構なことね」

アイギールがそういった理由の大部分は、観察対象であった彼らそのものにあった。
外見も、性格も、出身世界も多様性に満ちあふれていたからである。
新鮮な世界に、新鮮な知的生命体たち。
やはり、異世界はこうでなくては。

「これは……しばらくは飽きずにすみそうだわ」

満足げに微笑み、翼をひろげる。
と、翼から無数の触手が産まれでて、あちこちへと散っていった。

伝達用触手。

街にいながら、同世界の全てのモノと交流できるようにするための、非物理的なテレパス触手である。
多くの世界では、世界自身が抵抗し、ごく限られた地域にしか伸ばせないこの触手も、
この世界では、むしろそれを推奨しているかのような蔓延のさせ心地である。
これで、数多のモノと交流することができるだろう。

伝達用触手をひろげる途中、色々な集団の情報を受け取る。
何らかの意志を表明する者たち、特定のものを愛好する者たち、
喫茶店、酒場、宿屋、娯楽施設の数々……
恐らくは、それらに参加しているものは、幾分か返事が期待しやすいだろう。
特に、交流を求めるような集まりに参加している者たちは。
アイギールは、二日目の少ない情報で参加した集まりの他に、色々な集団の中に顔を出してみることにした。

どうやら集まりの中では、自身を誰かの物語に登場させたりする許可を付与するような、
そんな集まりもあるらしい。
それは、言葉のやりとりよりも、より濃密な関係性を築くことが出来るだろう。
それに、アイギールも、自身の物語になるべく他の人物を登場させたかった。
一石二鳥、願ったり叶ったりである。

「さて。後は、もう一仕事、ね」

そう呟くと、アイギールは街の空間のすみずみまで舐めるように見回す。
そして。
アイギールは、何の変哲もないように思えるところを、じっと見つめ。
口を開く。

「ここに、ひとつ」

口元をニヤリと歪め、指先からテレパス触手――ただし、先程はびこらせたものより随分細いもの――を、
なにもない空間へとおどらせる。
テレパス触手は、なにもないはずの空間から、小さな小さな穴を見つけ、どこかへと滑りこんでいく。

「ここも」

パリパリッ、にゅるん。

「見つけたわ」

ピリッ。しゅるん。

「……あった」

つぷっ。ずるん。

歪みを見つけ、そこに触手を突っ込み、穴をくぐらせる。
その作業を、ひたすらひたすら続けていく。
夢みるもう一つの世界の住民とも、交流ができるように。
少しずつ、触手を繋げていく。

「ふふふふふ……楽しみね。否定の世界、アンジニティ。
どんな異常者と話せるかしら」

触手で伝達の道を造りながら、洩れてくる断片情報を心の隅に留め、
早期に伝心できそうなモノを捜しておく。
少しでも早く話しかけられるように。
時には、おぞましい肉塊のような、心底寒気のする殺人鬼の気配を察しながら。

世界間通信ができ。
仮に、通信以外でも、セルフォリーフとアンジニティが繋がってしまったとしても、
アイギールには何の関係もないことだった。

いや、むしろ。

「躍動の世界に、負が訪れたら……この世界の住民は、
どんな情報を吐き出すのかしら?」

そうなったとしても、それもまた彼女の楽しみであった。


――世界間通信・受信可能まで、あと七日。
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――――やってきたのは、唐突な電子の津波で。

ごぼ……ごぼごぼ……

<<あ、グゥっ……  死なない身体といっても……これだけ、情報が散っていっては……
 ……かはっ……喋れ、ない……話して、いたのに……届かない……
 駄目……目が……覚めて、しまう……
 まだ、眠っていたいのに……>>

ごぽっ

……

…………

----

「……今の夢……心残りね。
 もう一度同じ夢をみたいわ。今度は、どんなモノと触れあえるかしら。
 ふふ……楽しみね。
 じゃあ、お休みなさい」

----

水に長いこと浸かっていた気がする。
ふと水面から顔を出してみたら、そこはまるで違う世界。

「あら、私は確か。
 偽りの島にいたのではなかったかしら?」

周りの生物に焦点を合わせ、情報を収集する。

「成程。つまり、今の私とここは、まるきり新しい世界なのね」

空を見上げる。

「あれは、歪み、かしら?
 どうなるかは分からないけれど。
 何かが、重なって……偽島ではないわね。
 もう一つの世界、のようね」

口元がわずかに歪み、微笑みをみせる。

「もう少し、静観を続けましょうか……」
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